配偶者居住権とは?生活を守る権利のメリットと活用方法を解説

相続で残された配偶者の住まいを守るため、2020年4月に新設された「配偶者居住権」。この制度により、配偶者は住み慣れた自宅に住み続けながら、預貯金などの生活資金も確保できるようになりました。本記事では、配偶者居住権の基本的な仕組みから、具体的なメリット、活用方法まで詳しく解説します。

 

配偶者居住権の基本を理解しよう

配偶者居住権は、相続において残された配偶者の生活基盤を守る重要な制度です。まずは基本的な仕組みと特徴を理解しましょう。

配偶者居住権の定義と特徴

配偶者居住権とは、配偶者が亡くなった後も、残された妻や夫が自宅に住み続けることができる法的な権利です。令和2年4月の民法改正で新設された制度で、不動産の「所有権」と「居住する権利」を分離することで、配偶者の居住環境を保護します。

この権利は原則として配偶者が亡くなるまで存続し、所有者の承諾なく第三者に譲渡することはできません。ただし、期間を定めて設定することも可能で、配偶者の生活設計に合わせた柔軟な対応が可能となっています。

配偶者居住権が創設された背景

従来の相続では、配偶者が自宅に住み続けるために所有権を取得すると、他の財産を相続できず生活資金が不足するケースがありました。また、他の相続人が所有権を取得すると、配偶者が住まいを失うリスクがありました。

平均寿命の延伸により、配偶者の一人暮らしが長期化する傾向にあります。住み慣れた環境での生活継続を支援する制度の必要性が高まり、約40年ぶりの相続法改正における重要な制度の一つとして、配偶者居住権が創設されました。

配偶者居住権と配偶者短期居住権の違い

配偶者居住権は終身または一定期間の居住を保障する権利で、遺言や遺産分割協議などで設定します。一方、配偶者短期居住権は遺産分割終了まで、または相続開始から6か月間の居住を認める権利で、自動的に発生します。

また、配偶者居住権は登記が必要で、第三者にも対抗できる権利です。これに対し、配偶者短期居住権は登記できず、一時的な居住を保護する制度となっています。建物全体への効力が及ぶ配偶者居住権に対し、配偶者短期居住権は生前居住していた部分のみが対象となるのも重要な違いです。

 

配偶者居住権のメリット

配偶者居住権の設定により、住まいの確保、生活資金の確保、税負担の軽減など、さまざまなメリットが得られます。具体的に見ていきましょう。

住み慣れた自宅に住み続けられる

配偶者居住権があれば、原則として終身にわたって自宅に住み続けることができます。高齢者にとって大きな負担となる住み替えを避け、慣れ親しんだ環境で生活を続けられることは、大きなメリットとなります。

また、地域の医療機関や介護サービスとの関係を維持できるため、必要な支援を途切れさせることなく受けられます。長年築いてきた近隣関係や地域とのつながりを保つことができ、社会的な孤立を防ぐこともできるのです。

預貯金など生活資金も確保できる

所有権と居住権を分離することで、自宅の評価額を低く抑えられます。その分、預貯金などの他の財産を相続できる余地が広がります

【例】評価額4,000万円の自宅と2,000万円の預貯金がある場合
……従来なら自宅の所有権(4,000万円)のみを取得するところ、配偶者居住権(2,000万円)と預貯金(1,000万円)を取得できるようになります。

また、配偶者居住権の設定により、他の相続人の遺留分を侵害することなく、配偶者の居住権を保護できます。代償分割の必要性も低減され、円滑な相続が期待できるでしょう。

 

配偶者居住権を設定する際の注意点

配偶者居住権は、居住の保護という利点がある一方で、様々な制限や注意点があります。設定前に制度の特徴をよく理解し、将来起こりうる問題に備えることが大切です。ここでは、権利の存続期間、費用負担、利用制限について詳しく解説します。

権利の存続期間と制限

配偶者居住権は原則として終身の権利ですが、期限を定めることも可能です。終身とした場合、配偶者が施設入所などで長期不在となっても権利は継続するため、建物の有効活用が難しくなる可能性があります。

権利は配偶者の死亡により当然に消滅しますが、それ以外にも消滅事由があります。例えば、建物が老朽化や災害で滅失した場合や、配偶者に義務違反があり所有者から消滅の請求を受けた場合などです。期間満了後は建物を明け渡す必要がありますが、配偶者と所有者の合意により期間を延長することはできません。

費用負担と管理

配偶者居住権が設定された建物の維持管理費用は、原則として配偶者が負担します。固定資産税は所有者に課税されますが、配偶者が実質的な負担をすることになり、所有者が立て替えた場合は求償されます。

通常の必要費として、建物の小規模な修繕費用や火災保険料なども配偶者の負担となります。一方、大規模修繕や建物の価値を高めるような改良費用については、所有者との協議により負担割合を決める必要があります。

利用に関する制限事項

配偶者居住権は、配偶者自身が居住するための権利です。そのため、第三者への賃貸や譲渡は原則として禁止されています。建物の改築や増築、用途変更なども所有者の承諾が必要です。

同居人については、配偶者の生活を支援する介護者や親族など、居住目的で同居することが社会通念上相当と認められる人に限り、所有者の承諾なく同居させることができます。ただし、事業用への転用など用途を大きく変更する場合は、所有者の同意が必要となります。

 

配偶者居住権が特に有効な3つのケース

配偶者居住権は、相続人の状況や財産の内容によって、その有用性が変わってきます。ここでは、特に効果的な3つのケースについて、具体例を交えながら解説します。

遺産の大半が自宅である場合

遺産の大半が自宅の価値で占められているケースは、配偶者居住権の活用が最も効果的です。例えば、評価額5,000万円の自宅と1,000万円の預貯金というケースでは、配偶者居住権を設定することで、居住権と預貯金を組み合わせた柔軟な遺産分割が可能になります。

不動産の評価方法は建物の時価を基準とし、配偶者の年齢や建物の残存耐用年数などを考慮して算出します。相続人間で遺産を公平に分配する際は、この評価額を基に他の相続財産との調整を行います。

配偶者が高齢の場合

高齢の配偶者の場合、住み慣れた環境を維持することが健康面でも重要です。例えば、80歳の配偶者が自宅で介護サービスを利用しながら生活している場合、転居による環境変化は大きな負担となります。

配偶者居住権を設定する際は、将来の施設入所の可能性も考慮に入れます。認知症などに備え、任意後見制度の利用や、配偶者居住権の存続期間に条件を付けることも検討すべきです。成年後見制度との連携により、配偶者の権利を守りながら柔軟な対応が可能になります。

子との関係が良好でない場合

再婚により子との関係が複雑な場合や、相続をめぐって対立がある場合は、配偶者居住権による権利保護が有効です。例えば、先妻の子と後妻が対立しているケースでは、後妻の居住権を法的に保護しつつ、建物の所有権は子が取得するという解決が可能です。

遺留分侵害を避けるため、配偶者居住権と所有権の評価額を適切に設定します。また、将来のトラブルを防ぐため、使用方法や費用負担について具体的な取り決めを行い、遺言書や遺産分割協議書に明記することが重要です。

 

配偶者居住権の設定方法と手続き

配偶者居住権を設定するには、遺言による方法と遺産分割協議による方法があります。いずれの場合も、権利を確実に保護するために登記が必要です。ここでは、それぞれの設定方法と具体的な手続きの流れについて解説します。

遺言による設定方法

配偶者居住権を遺言で設定する場合は「配偶者居住権を遺贈する」という文言を使用します。「相続させる」という表現では、配偶者が権利を放棄したい場合に他の相続財産まで放棄しなければならなくなる可能性があるためです。

具体的な文例としては「私は、次の建物について配偶者居住権を妻○○に遺贈する」とした上で、建物の所在地や家屋番号などの登記情報を正確に記載します。公正証書遺言であれば、法律の専門家である公証人のチェックを受けられる点が大きな利点です。また、存続期間や使用条件などの付帯条件も明確に記載しておくと安心です。

遺産分割協議による設定方法

遺産分割協議で配偶者居住権を設定する場合は、相続人全員の合意が必要です。まずは配偶者居住権の評価額を適切に算定し、それを踏まえて他の財産との配分を検討します。

協議書には、配偶者居住権を設定する建物、権利者、存続期間、その他の条件を明確に記載し、相続人全員が実印を押印します。合意形成が難しい場合は調停を申し立て、調停でも解決しない場合は審判による解決を図ることができます。ただし、審判では配偶者の住居確保の必要性が認められる場合に限り、設定が認められます。

登記手続きの流れ

配偶者居住権の登記は、権利の設定後できるだけ早く行うことが望ましいです。必要書類は、登記申請書、登記原因証明情報(遺言書または遺産分割協議書)、住民票、印鑑証明書などです。登録免許税は建物の固定資産税評価額の0.2%となります。

登記申請は配偶者と建物の所有者が共同で行う必要があり、専門的な知識が必要となります。そのため、早い段階で司法書士に相談し、必要書類の準備から申請手続きまでサポートを受けることをお勧めします。

 

まとめ

配偶者居住権は、遺言や遺産分割協議によって設定し、登記によって権利を保全する必要があります。制度を有効に活用するためには、設定方法や手続きについて正しい知識を持つことが重要です。

配偶者居住権の設定方法や具体的な手続きについて、より詳しい説明をご希望の方は、ぜひ当事務所にご相談ください。経験豊富な司法書士が、あなたの状況に合わせた最適な方法をご提案いたします。

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